干からびたワカメ、キャップのない油性ペン……

月曜日の朝、長男のみーたろうを保育園へ送って家に戻ると、新鮮な驚きを感じることができる。そこは、30分ほど前まで家族とともに過ごした場所だというのに。その様子をなんと表現したらよいだろう。適当な言葉が見つからないので、現状を列挙していきたい。

ダイニングテーブルでは、オムレツが3分の2ほど乾きかけている。干からびたワカメ、そのワカメが入っていた味噌汁椀と、汁を吸いとっている未読の新聞。箱から引き抜かれて丸まったティッシュペーパー。キャップのない油性ペン、マラカス……。

リビングに移動しよう。文字どおり足の踏み場もない。増え続けるおもちゃ、散乱したおむつ、ケースから飛び出た綿棒、服、服、服。そして、抹茶がのったスプーン……。お察しのとおり、それは抹茶ではなくカビである。食べ物がついたまま放置され、新たな生態系が生まれているのだ。

私はそっとスプーンを床に戻し、ダイニングに戻って味噌汁を啜り、ひとかたまりになった新聞を眺めながらオムレツのミイラを口に運ぶ。清々しい1週間のはじまりである。

 

2歳の君へ母からのお手紙です

拝啓

夏至が近づくにつれ、日の出もますます早まり、貴殿も早起きが続いていますが、保育園で眠くなっていませんか? 今朝は貴殿の弟ぎみが4時に乳を飲み終えられ、その後5時に貴殿が元気よく起きていらしたのでアンパンマンごっこを一緒に楽しんだ母はいささか睡眠不足です。

今日は2歳の君に、してほしいことと、してほしくないことを書き留めたく筆をとりました。

 ・湯船でトマトを食べないでください。
 ・納豆をご飯の上にのせただけで、そんなに悲しげに泣き叫ばないでください。
 ・目覚まし時計を不要な時刻にセットしないでください。
 ・エアコンのリモコンを巧みに操らないでください。
 ・母の大事な水槽の魚たちを、貴殿が庭に掘ったくぼみへ移動するのはやめてください。
 ・プランターの未熟な野菜たちを片っ端からむしらないでください。
 ・前を向いて歩いてください。
 ・弟ぎみの存在を認めてやってください。

いろいろと書き連ねましたが、本当にお願いしたいのは最後の2つだけです。

「前を向いて歩いてほしい」というのは、生きていく姿勢を説いているのではなく、物理的に、歩く方向に顔を向けてほしいのです。毛布を被って壁に激突したり、粘土をこねくりまわしながら玄関に転げ落ちたりしては泣いて助けをお求めになりますが、未必の故意、自業自得、己のせいです。どうか己の身は己で守る術を体得し、元気で笑っていてください。

「弟の存在を認めてほしい」というのは、いまだに「まー(次男)、いつ帰る?」などと尋ねていらっしゃいますが、まーは貴殿と帰る家を同じくする、大切な貴殿の弟だからです。私たちが亡き後も、どうか二人で助け合い、冷たい世間の風から互いを庇いあってください。

ここだけでも構いませんので、字が読めるようになったら目を通してもらえれば幸いです。

梅雨の午後、貴殿が家中に貼った付箋を剥がしながら。

2歳の君へ 母より