お腹の赤ん坊にできることは、動かないこと

長男の暴君ぶりについ忘れてしまいがちだが、出産時のことについて書き記しておきたい。

産休を2ヵ月後に控えたある日の朝、ふと下腹部に違和感を覚えた。確認すると、やや出血している。病院に寄ってから出社しようと家を出るも、病院で即入院を言い渡された。さらに入院したその夜に破水し、県外の大学病院へ搬送されることになったのだった。

搬送前に胎児の命を守るため肺を広げる薬を注射され、「48時間経てば、赤ちゃんが外に出てきても最悪の事態は避けられるから、それまで頑張って!」という医師の声を聞き、呆然としながら救急車に揺られていた。

受け入れ先の病院で今後の方針の説明を受けたが、要は、一日でも長くお腹にとどめておけば、その分出生後に障害が残るリスクを減らせるから頑張りましょう、というものだった。何をどう頑張ればよいのかの指導はないまま大部屋に通されると、可愛らしいナースたちが、点滴やら導尿カテーテルやら電極やらを私の体のあちこちに取り付けていった。人造人間のように管だらけになった私は、ようやく頑張りどころを知る。それは、「動かないこと」だ。

私がお腹の赤ん坊にできることは、動かないことと、食べることしか残っていない。そのため1ヵ月ほど、食事は寝たまま舐めるように食べ、天井のドット模様を端から幾度も数え、じっとしていた。模様は何度数えても同じ数になることはなく、これまで調査で数えた野鳥や魚たちの数も9割方間違っていたのだろうなと思ったりして──。

夫と母は電車を乗り継ぎ、毎日面会に来てくれた。母は朝から山のように私の好物を持って。夫は仕事を無理やり終えて、面会時間ギリギリに来ては何日も風呂に入らずにいる私にファブリーズと優しい言葉をかけてくれた。