藤原公任も紫式部も評価

しかし敦道親王も寛弘四年(1007)に、27歳で先立ってしまいました。

和泉式部の歌碑。京都市・貴船神社(写真提供:PhotoAC)

『和泉式部集』には、

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身よりかく涙はいかがながるべき海てふ海は潮やひぬらむ

(泣いても泣いてもどうして涙が止まらないのだろう。海という海は潮が引いてしまったみたい)

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という、涙を海に例える狂おしいまでの悲しみの歌があります。

ドラマでは町田啓太さんが演じている才人貴族・藤原公任が、和泉式部の歌を赤染衛門のそれより高く買っているのは、こういった天才的な言葉の選び方にあります。

紫式部も『紫式部日記』で、彼女の素行や態度を批判。しかし歌については「本物の歌人ではない」と言いつつも、「をかしき一ふし」が目に留まるとしています。

そんな天才歌人を周りが放っておくこともなく、傷心の彼女に彰子サロンからスカウトがかかったようなのです。

最後に、私が今気になっている和泉式部の歌をご紹介します。

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わが袖は水の下なる石なれや人にしられでかわくまもなし

(私の着物の袖は水の下の石なのだろうか。人に知られていないけど涙で乾く間もないわ)

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「泉」里香さんが演じる「和泉」式部ということで、「水」の歌を思い出したという次第です。


謎の平安前期―桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年』(著:榎村寛之/中公新書)

平安遷都(794年)に始まる200年は激変の時代だった。律令国家は大きな政府から小さな政府へと変わり、豊かになった。その富はどこへ行ったのか? 奈良時代宮廷を支えた女官たちはどこへ行ったのか? 新しく生まれた摂関家とはなにか? 桓武天皇・在原業平・菅原道真・藤原基経らの超個性的メンバー、斎宮女御・中宮定子・紫式部ら綺羅星の女性たちが織り成すドラマとは? 「この国のかたち」を決めた平安前期のすべてが明かされる。