「データより空気」
数字というものは客観的に見えるが、その数字を作るのはあくまで人間である。
鈴木氏の出した数字は「客観的」ではあったが、その見せ方は「空気」を読んで演出されていた。そんなまやかしのデータにすがる形で、日米開戦は決定的となった。
そのとき、「総力戦研究所」の出したシミュレーションを思い出した者はいただろうか。
もしかしたら、いたかもしれない。しかし、閣僚たちが集まるなか、30代の若手が机上で積み上げた議論を持ち出して「できない」などと言える雰囲気ではなかったのではないか。
求められていたのは「開戦できる」という結論と、それを支える数字だけだった。
「データより空気」、まさに現代の日本でもよく目にする過ちが、日本最大の悲劇を招く結果となったのである。
ちなみに、このインタビューが行われたのは、鈴木氏が93歳のときである。対する猪瀬氏は当時35歳。
鈴木氏の耳が遠いため、質問はすべて画用紙に書かれたが、鈴木氏の記憶力と分析力は目をみはるものがあったという。
41年前の記憶をはさんで相対する、戦前生まれと戦後生まれの二人。なんとも印象的なこのインタビューの詳細は、ぜひ本書を読んでほしい。