横須賀から何通か届いた手紙の姉はどれも元気な様子で、工場では兵器の生産をしており、自分は寄宿寮の寮長として皆から慕われている、といったようなことが書かれていました。

それが、任務を解かれて4日。活気に溢れていたはずの姉の姿はしょんぼりと力なく、手紙とのあまりの違いぶりに私は戸惑ったほどでした。

しかし数日もすると、黙りがちだった姉が突然しゃきっとして、「こっくりさんを呼ぶ」と言うのです。そして、別人のような口調で私にいろいろと指図をしました。こっくりさんのことは友達から聞いたことはありましたが、まったく縁のない世界の話と思っていたので、まさか自分が呼ぶことになるとは考えてもみませんでした。

まず姉は、こっくりさんをお迎えする場所は家族の出入りする玄関ではなく、特別な客やお寺のお坊さんが出入りする来客用の玄関の式台とし、そこへ真新しい客用の座布団を置きました。

そして白い大きな紙にひらがな五十音すべてを大きく書き、そのおわりには一から十までの漢数字を縦に並べて書きます。上部の余白には鳥居の印、その横に「休み」と書いて丸で囲むと、紙を座布団の上に広げました。

私は言われるままに台所から新しい割り箸3本と、新しいガラスのコップに冷たい井戸水を汲んで持ってきました。姉がその割り箸を組み合わせ、糸でくくります。1本は長く、左右へ斜めに出した2本は短く。

この短い2本は姉と私が持ちますが、持つというよりは軽く手を添える程度で、決して力を入れてはいけないということでした。ただ、その力加減がわからない。力を抜くと割り箸が倒れてしまい、あわてて持ち直すと今度は力が入りすぎていると𠮟られ、とても緊張しました。