すると先ほど汲んできたコップの水のほうへ割り箸が静かに動き、すっと水のなかに入ります。お盆過ぎの真昼ですから、人間と同じようにこっくりさんも冷たい水がおいしいのか、と感心しました。
まもなく割り箸がまたふわっと浮き上がり、五十音表の上をゆらり、ゆらりと回りはじめます。すると姉はこう言いました。
「こっくりさん、お願いがあります。東京の中野通信隊にいる兄さんが、無事に帰ってくるでしょうか。教えてください。お願いします」
私は目をつむってそれを聞きながら、心のなかで「いくらこっくりさんでも、そんなことがわかるわけがないでしょう」と思いました。でもそんなそぶりを見せてはいけないとじっと割り箸の動きを見つめていると、しばらくふわふわ動いていた割り箸が長い時間をかけて、ゆっくりと文字を拾ったのです。
「は・い・か・え・り・ま・す」
それをとらえた姉の目は、とても自信ありげに光っていました。