箸が浮き上がってふわり、ふわり
いよいよ、こっくりさんを呼ぶことになりました。
「こっくりさん、こっくりさん。どうぞ私の家においでください。お願いします」
姉は目をつむり、静かな口調でわが家の住所番地から戸主である父の名前まで、はっきりと2回唱えました。
割り箸に軽く添えていた私の手が、突然ふわっと浮き上がったように思い、はっとして姉の顔を見ました。「黙って」と姉の目が言っています。
「こっくりさん。いらっしゃったらお返事をしてください」
と、姉の声。すると五十音表の上をふわりふわりと浮いたように回っていた割り箸の先が、は行の一番上にトン、と下りました。そしてまたゆっくりと浮き上がって、あ行の2番目をトン、とついたのです。
「は・い」。そう返事をしたのだとわかり、私はキャーッと歓声をあげそうになるのをこらえて、目をつむりました。姉は静かに落ち着いた声で、
「お暑いなかをご苦労様です。どうぞお水をおあがりください」
と言いました。