中沢啓治『はだしのゲン』広島に原爆が投下された直後のシーン
広島市内に原爆が投下された直後、家族のいる自宅に走るゲン(中沢啓治『はだしのゲン』第1巻[中公文庫]より)
中沢啓治さんが逝去されて12年となる今年、アメリカで“コミック界のアカデミー賞”とも呼ばれるアイズナー賞の「コミックの殿堂」を受賞しました。優れた業績を残したマンガ家に対して”殿堂入り”を認める賞で、日本人では過去に、手塚治虫さん、宮崎駿さん、高橋留美子さんらが受賞しており、中沢さんは8人目となります。今回は、妻のミサヨさんに作品を描く啓治さんについて伺った『婦人公論』2024年9月号のインタビュー記事を再配信します。


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〈発売中の『婦人公論』9月号から記事を先出し!〉
広島での原爆体験をもとに、中沢啓治さん(1939~2012年)が描いた漫画『はだしのゲン』。被爆体験を語る人がまだ少なかった51年前に発表されるや社会に衝撃を与え、ベストセラーに。今も日本のみならず、世界中で読まれています。作者はどんな思いでこの作品を描いたのか。啓治さんの没後12年を迎えた広島で、妻のミサヨさんに聞きました(構成=篠藤ゆり 撮影=大島雅紀)

忘れてはいけない怒りと悲しみ

ここ数年は、8月6日の平和記念式典をはさんで、7月、8月を広島で過ごしています。私は広島県出身なので、こちらには姉や友人もいますし、夫の描いた『はだしのゲン』を通してご縁が生まれた方も大勢いらっしゃるので、ここに来ると落ち着くのです。

夫もよく言っていましたよ。「やっぱり広島がホッとする」って。夫の生前は埼玉の自宅と広島を行ったり来たりしていましたが、もう私も歳ですし、最近は広島に来るのはほぼ年に1回にしています。

夫は晩年、「広島 愛の川」という詩を書きました。この詩に作曲家・山本加津彦さんが曲をつけてくださって歌になり、毎年8月6日のとうろう流しの会場で、子どもから大人まで大勢の方々が歌ってくださるんです。それを間近で見たいというのも、広島に来る理由の一つですね。

瀬戸内海を見渡せる小高い丘にある広島平和霊園に、お墓参りにも行きます。夫の墓碑には、「人類にとって最高の宝は平和です はだしのゲン 中沢啓治」と刻まれています。今もお参りしてくださる読者の方がいるようで、本当にありがたいです。