生活の質を追求した結果
こうしたコンセプトは、堤清二のマージナル産業論からすると、交換価値ではなく使用価値に即した商品の見直しという方向から成果を得たものと言える。
堤自身、無印良品には「「反」資本の論理」という発想があったと回想している(御厨ほか編2015)。
あるいは、デザイン担当の田中一光による無印良品というネーミングの妙もあって、ノーブランドでありながらしだいにブランドとしての認知を獲得していくが、堤自身は「無印は使用価値だけで売れないと困る」と、ブランド化に向かうことを強く警戒していた。
以上の経緯で最も注目されるのは、商品科学研究所の存在である。
商品科学研究所は、1970年代の生活の質をめぐる問いに、堤清二が深く向き合ったがゆえに生まれたものだったからである。
参考文献:
由井常彦編(1991a)『セゾンの歴史――変革のダイナミズム』上巻、リブロポート
由井常彦編(1991b)『セゾンの歴史――変革のダイナミズム』下巻、リブロポート
御厨貴・橋本寿朗・鷲田清一編(2015)『わが記憶、わが記録――堤清二×辻井喬オーラルヒストリー』中央公論新社
※本稿は、『消費者と日本経済の歴史 高度成長から社会運動、推し活ブームまで』(中公新書)の一部を再編集したものです。
『消費者と日本経済の歴史 高度成長から社会運動、推し活ブームまで』(著:満薗 勇/中央公論新社)
応援消費やカスハラなど、消費者をめぐるニュースが増えている。本書は、消費革命をもたらした1960年代から、安定成長期やバブル、そして長期経済停滞までを消費者の視点で描く。生産性向上運動、ダイエー・松下戦争、堤清二とセゾングループのビジョン、セブン‐イレブンの衝撃、お客様相談室の誕生などを通し、日本経済の歩みとともに変貌していく消費者と社会を描き出す。