顧客満足が第三者に与える影響

たとえば、多くの顧客が乗用車を購入し、企業利益と顧客満足が達成されたとしても、多くの購入者の存在によって道路の混雑や渋滞が深刻化すれば、都市全体の機能低下につながり、購入者以外も不利益を蒙こうむる。あるいは、自動車がもたらす大気汚染、騒音、交通事故なども、第三者にまで深刻な負の影響を与える(宇沢1974)。

要するに、顧客満足の追求は、社会全体から見て望ましい結果をもたらすとは限らないのである。しかも、企業も顧客も満足してしまうために、そのことが不可視化されやすい。

『消費者と日本経済の歴史』では、以上に見た顧客満足の追求をめぐる問題点、すなわち(1)生産性上昇とのトレードオフの関係、(2)時間軸で見た期待水準の上昇、(3)外部不経済の発生とその不可視化という三点をまとめて、広義の顧客満足のジレンマと呼ぶ。

これらの問題点があるにもかかわらず、企業は競争のなかにあって、顧客満足の飽くなき追求から降りられないのである。