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日本経済は1960年代以降、安定成長期やバブル、「失われた10年」とも呼ばれる長期停滞など、消費者の生活に大きな影響を与えながら変化していきました。一方で、応援消費やカスハラなど消費を巡るニュースが増える中、北海道大学大学院経済学研究院准教授の満薗勇氏は、消費者が社会や経済に与える影響について指摘します。今回は、著書『消費者と日本経済の歴史』(中公新書)より、売上と利益より“お客様第一”を優先することで、経済にどのような変化がおきたのか、一部抜粋してご紹介します。オリエンタルランド、ヤマト運輸、セブンイレブン、ユニクロなどは顧客満足度を追求することで、新市場の想像と企業成長を達成したとのことですが――

顧客満足度と業績向上のつながり

これらの企業は、たしかにイノベーションを達成して新たな時代を切り拓いたが、経営学の議論では、一般に、顧客満足の追求が業績向上に結びつくとは限らないことが確認されている。

そもそも顧客満足の追求は、生産性の上昇とトレードオフの関係になりやすい(嶋口1994)。顧客に喜ばれるには経営資源を多く投入することが必要となる一方で、効率を追求するとサービス水準の低下につながる。

多様な欲求をもつすべての顧客を満足させるには、非効率に陥ることが不可避である。高度で豊富な機能を求めるコアなユーザーの期待に応えすぎると、かえってボリュームゾーンの顧客には混乱や不満をもたらしかねない(小野2008)。

加えて、満足という状態は、事前の期待に対する成果を主観的に評価したものなので、時間軸をともなって決まる。つまり、(1)顧客が事前にどのような期待を持っているのか、そして、(2)製品・サービスの購買が実際にその期待に応えたかどうか、という時間軸のもとで決まる。

そうなると、たとえば繰り返し取引が行われるうちに、顧客の期待がどんどん上昇しても、その水準をクリアし続けないと、たちまち否定的評価を受けてしまう。