短編小説の名手として知られる作家、阿刀田高さん(91)。認知症だった妻の慶子さんが施設に入居したことを機に始まった単身生活を綴ったエッセー『90歳、男のひとり暮らし』(新潮社)が好評だ。2025年に慶子さんが亡くなってから1年。阿刀田さんに家族への思いや人生観について聞いた。(取材・文:婦人公論.jp編集部・油原聡子 撮影:本社・武田裕介)
鏡を見ては…
昨年、エッセー『90歳、男のひとり暮らし』を出版した。スーパーに行って買い物をし、食事を整える。眠れない夜は『源氏物語』五十四帖や百人一首を順番に思い出してみる。年を重ねても機嫌よく暮らす日々を軽妙な語り口で綴り、話題になった。
「子どもたちは『あんなものを書いて』と苦笑いしていました。周りの評判ですか? 周りで語ってくれそうな人はみんな死んじゃったからね。誰が生きているだっていうくらい。親しい友人はもうほとんどいなくなりました」と語る。
都内の自宅でひとり暮らしだ。隣には次男夫婦が住んでいる。阿刀田さんの家は、玄関、リビング、洗面所と家のあちこちに鏡がある。
「素敵になろうとは思っていないんですが、あまり汚いじいさんになるのは嫌だなって。汚い生活もしたくないので部屋も片付けているんです」と笑う。
『90歳、男のひとり暮らし』(著:阿刀田 高/新潮社)