生やさしい問題ではないことだけは確か

かつて、シチリアにある古代遺跡のモザイクがドイツ人の観光客によって壊されるという事件が起こった時、地元の人は「蛮族の来襲による破壊」という表現を使っていた。

確かに古代ローマ文明は蛮族によって滅ぼされたが、それを未だに継続中の事象と捉えている彼らの解釈も決して大袈裟ではない。

観光客であろうとなかろうと、自由と解放を許された人間のメンタリティというものは、時にそうした非文明的で野蛮な側面を見せるということも忘れてはならない。

観光客には二重価格を導入したり、治安が悪くなったりすれば観光地としての人気もいくらか下がるだろうけれど、意図して仕込めることではない。

オーバーツーリズムへの対策もそれなりにあれこれ考えられてはいるようだが、国立公園の中にリゾートホテルをいくつも建てたところで解決するような、生やさしい問題ではないことだけは確かである。

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