重量ゼロの感動

ボクの真上を新たに1機の気球が昇っていく。あそこには数人の人が乗っていて、バルーンを操作しているのだ。操縦士のひとりが手を振るのが見えた。観客も彼に手を振る。

「今俺は、猛烈に感動している」

というのは「巨人の星」の星飛遊馬の言葉だが、あのクソ真面目野球バカの笑っちゃう言葉をなぞるしかない俺が、佐賀の河川敷にいた。

花火大会とは全然違う天空ショーだ。

静かで、ゆっくり動いていく、数えきれない熱気球。

ボクはただ、目を丸くして空を見ている。知らない間に口があんぐり開いていた。そうして、熱気球群はゆっくりと小さくなり、点になり、見えなくなった。

気球は戻ってくることはない。目的地まで到達したら、着陸、畳まれて車に積まれ、次の競技地に向かう。行先はこのスタート地点とは限らない。たぶん戻らないだろう。

重量ゼロの感動で、地上のボクの心はいつまでもフワフワとしていた。

※本稿は、『新・佐賀漫遊記』(産業編集センター)の一部を再編集したものです。

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