感動の一斉離陸

そして競技が始まった。らしい。

会場に、ラベル作曲の「ボレロ」が大音響で流れ始めた。今にして思えば、これが合図だったのか。

すると次々にバルーンが上がり出した。どうやら一斉離陸だ。一斉、といっても全員一緒にヨーイドンではなく、気球が次々に、ランダムに、音もなく上がり続けていく。

写真(とくにモノクロ)では、もっとも伝わらない感動だと思う(写真:『新・佐賀漫遊記』より)

これか。俺はこれが見たかったのだな。感激が静かに胸を満たしていく。

うわぁ、すごいすごいすごい。

無言で上昇する巨大でカラフルなバルーンたち。

まさにボレロがぴったりだ。最初「ラベルのボレロなんて、いかにもでわざとらしいな」と思ったが、そのうち、ラベルのボレロは、気球の一斉離陸のための音楽なんじゃないか、と思うほどピッタリすぎることに、ちょっと笑いながら感動していた。

秋らしい色濃い青空の中に昇っていく黄色いバルーン、赤と白のストライプのバルーン、いちご模様のバルーン、レインボーカラー、イラスト入り……。雄大な百花繚乱。

その色彩、その静謐な動き、気球同士のコンポジション、壮大な遠近感。全部含めて、空の立体動画シュールレアリズム。

ルネ・マグリットの絵画の現実全天空版。青空のグラデーション、そこに浮かぶうろこ雲、その手前に立体写真を見るが如く、誇張された遠近感をもって、じりじり遠ざかる色とりどりのカラフルな気球。

なんだろうこの光景は。完全に初めての視覚体験。味わったことない不思議な美しさ。