「本当は要らなかった」母が溢した本音
私は、東北の田舎町で生まれた。「自然に囲まれた美しい町」といえば聞こえはいいが、実際は過疎化が進み、年配者だけが取り残され、狭い町中にあふれるのはくだらない噂話と大人たちが垂れ流す不満の数々だった。私の両親も例に漏れず、日々不満を抱えていた。彼らの不満のおおよそを占めているのは、お金の悩みだった。父も母も、「金がない」が口癖だった。そのストレスは、いつも末っ子の私に向かった。
「子どもは二人で終わりにするはずだった。予定外にあんたができちゃったから、仕方なく産んだのよ。本当は要らなかったのに」
母にはじめてこの台詞を言われたのは、小学生の頃だった。生まれてきたことそのものが罪だった。のちに、「父が避妊をしてくれなかったこと」を併せて聞かされた。それを知ったとき、心の底から「死にたい」と思った。
「あんたのせいで」
「お前がこうさせたんだ」
母と父のこの言葉が体に染み込むたび、自分の身に起こる悪いことすべてを「自分のせいだ」と思うようになった。私が生まれてしまったせいで、母が苦しんでいる。私が存在するせいで、父がおかしくなってしまった。自分さえ生まれてこなければ。そう思うたび、自分に罰を与えた。左腕に与え続けた罰の痕は、40歳を過ぎた今でも体に刻まれている。消えることは、二度とない。