人生が失速
親戚の誰に財産を渡すかで悩む彼女から、久しぶりに電話があった。
「財産を渡す親戚の人は決まりましたか?」と聞いた。
すると、彼女は「どうでもいいわ。私が死んだら誰かがなんとかするでしょう」と言う。
私は「体調が悪いのですか?そうなら地域包括支援センターに電話して相談したらどうですか?」と話した。
しかし彼女は、「家の中で死んでいたら、誰かがなんとかするでしょう。外で倒れたら、誰かが何とかするわ。どうでもいいのよ」と声にも力がない。
長電話になったが、その原因をつきとめた。彼女はドライブが趣味だったのである。ところが、高齢者が起こす交通事故のニュースを見て、他人に迷惑をかけたらいけないと思い、80歳を過ぎたので免許証を返納し、愛車も売ったのである。
私は、「免許証の返納の決断は良いと思います。親戚の方に運転してもらい旅行をしたらどうですか?その中から良い人を選び、財産をあげるとか」と提案した。
「私は運転が大好きだったの。高速道路を走る時なんて最高。他の人が運転する車じゃ面白くない。年を取るって悲しすぎる」と、彼女は話していた。
彼女は得意の運転ができなくなり、人生も失速してしまったようだ。
あれから半年、彼女からの電話はない。
上の世代から学んできた私だが、病に倒れる人、急に人格が変化する人、亡くなる人が出てきた。人生の先輩たちがいなくなると、この情けない自分自身から学ばなくてはならなくなるようで、不安が増大している。