稔が運転する車が西量寺に着いたのは、午後二時十分前だった。車の中からしばらく山門のあたりの様子をうかがう。
日村は言った。
「日曜だから、追放運動の人たちがいるんじゃないかと思ったんですが……」
阿岐本が言った。
「姿が見えないねえ。お、時間だ。行ってみよう」
田代住職が本堂の前で待っていた。
「ご足労いただき、申し訳ありません」
阿岐本が尋ねた。
「追放運動の人たちがいらっしゃいませんね」
「ああ、それがですね。今朝町内会の役員会があったらしいんですが、その席で原磯が役員たちに話をしたようです」
「話をした……」
「ええ。それで、寺の前で人が集まって声を上げたりするのは雰囲気もあまりよろしくないということで、取りあえず追放運動とか反対運動とかはやめようということになったようです」
「そうですか。原磯さんが……」
「あんなやつに、さんを付けることはありませんよ」
「昨日の夜、お話ししましてね」
「話……」
「どうもタチのよくないやつと付き合っていたようで……。それも、昨夜解決しました」
「ああ、それであいつ、人が変わったように……」
「勉強になったとおっしゃってました」
「口だけじゃないかねえ。ま、あいつのことはいいや。さ、本堂にお上がりください」
「お邪魔します」
田代住職に続いて、阿岐本と日村が本堂に上がると、そこに区役所の斉木がいた。
そうだった。鐘の音については、住民の苦情を受けて区役所が寺に注意をしているということだった。これから、斉木を説得しなければならないのだろうか。日村の気分は重くなった。
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