真吉が解錠すると、まず香苗が入ってきた。
「こんにちは」
若い衆が挨拶を返す。地域の住民には、ちゃんと挨拶をしろと躾けてある。
「はい、こんにちは」
日村も挨拶をした。「学校はどうした?」
香苗は私服姿だ。
「授業はもう終わったよ」
「おまえ、部活とかやってないのか?」
「バスケやってたけど、やめちゃった」
「どうしてだ?」
「私、背が低いし」
「背が低くても、活躍している選手がいるじゃないか」
「ああいうの、特別だよ」
「部活やめて暇だからって、ここに来ちゃだめだ」
「だから、何でよ」
マスターの源次がポットを携えて事務所に入ってきた。
「すみません。孫がいつもお世話になっていて……。お礼と言ってはナンですが、今日もコーヒーをお持ちしました」
「ありがとうございます」
日村は頭を下げた。「少々お待ちください。阿岐本に知らせて参ります」
日村は奥の部屋に行き、マスターの源次がコーヒーを持って来てくれたことを告げた。
「おう、そいつはありがたい」
ドアを開けて出てきた阿岐本が言った。「どれ、ごちそうになろう」
真吉と稔が用意したコーヒーカップや湯飲み茶碗に、源次がコーヒーを注いでいる。芳香が事務所内に満ちる。
源次と阿岐本は応接セットのソファに座る。
「いただきます」
阿岐本がコーヒーをすすると、若い衆も飲みはじめた。
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