事務所に入ってくるなり、仙川係長が言った。
「ん? なんだ、あんたらは?」
源次と香苗のことだ。
源次がこたえた。
「近くの喫茶店の者です。コーヒーをお届けに参りました」
「排除条例知らないの?」
「こちら、指定団体ではないとうかがっておりますので……」
阿岐本が仙川係長に言った。
「お二人も、コーヒーいかがですか? 絶品ですよ」
仙川係長は興味をそそられたようだが、甘糟がふるふるとかぶりを振った。
「だめですよ。連中から何か振る舞われたりしたら……」
「そうですか。残念ですな」
阿岐本が言う。「それで、今日はどんなご用件で……?」
仙川係長が言った。
「高森が言っていた中国マフィアを検挙したよ」
「ほう……。ずいぶんとお早い対応ですね。結果が出るのは、もっとずっと先のことかと思ってました」
「その中国マフィアは、本部の国際犯罪対策課や捜査二課がマークしていたやつだったんだ。なかなか尻尾がつかめなかったけど、高森の証言で逮捕状が取れたってわけ」
「なるほど、そういうことでしたか。谷津さんもご機嫌でしょうね」
とたんに仙川係長は不機嫌そうな顔になった。
「あいつのことはいいよ」
甘糟が言った。
「谷津さん、国際犯罪対策課に協力して、株を上げたようです。もしかしたら、近々本部に引っぱられるかもしれませんね」
仙川係長は甘糟を睨んだ。
「余計なことは言わなくていい」
手柄にこだわる仙川係長は、よほど悔しいらしい。
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