香苗が阿岐本に言った。
「日村さんが、ここに来ちゃだめだって言うんですよ」
「こいつは石頭だからね」
 阿岐本が言う。「けど、その件に関しちゃ誠司の言うことは正しいな」
「暴対法や排除条例があるから?」
「私ら、指定団体じゃないが、まあ、今のご時世じゃ、反社と付き合うのは御法度ということになってるからね」
「部活やるより、ここに来るほうがためになると思うんだけど……」
「お嬢……」
 阿岐本がしみじみと言う。「ここにいる、健一も、稔も、真吉も、テツも、まともに高校も中学も通っていない。誠司もそうだ。こいつらはね、学校で勉強して部活で汗を流してっていう普通のことをやらなかったことを、心底後悔してるんだ」
「でも、ちゃんと生活してる」
「ちゃんとじゃないんだよ。ここにいる者はね、誰もちゃんとしていねえ。だから、ためになるなんて思わねえほうがいい」
 香苗が押し黙った。
 すると源次が言った。
「ちゃんとしている人間なんて、そうそういませんよ。香苗はここに来ることで学ぼうとしているんですよ。何が本当のことなのかをね……」
「いや、源さん。それは……」
 そのとき、またインターホンのチャイムが鳴った。また真吉が応対する。
「甘糟さんと仙川係長です」
 日村は阿岐本に尋ねた。
「どうします? マスターや香苗がいるところを見られるとまずいんじゃないですか?」
「そうだな」
 すると、源次が言った。
「北綾瀬署の刑事さんですね。私たちはいっこうにかまいません。悪いことをしているわけではないので……」
 それを受けて阿岐本が言った。
「お通ししろ。源さんのコーヒーをごちそうしてやんな」