窪田さんに出演していただけるのなら

齊藤 今回、神津凛子さんの原作を読ませていただいて、まずこれは活字だから描ける世界だなと感じました。それゆえに「これを実写化する重責は自分には担えない」と思い、実は二度ほど「難しいです」とお伝えしたんです。キャスティングにしても、この作品の柱となる清沢賢二を演じられる人は限られていますから。そんなことを思いつつ原作を何度も読み返すうちに、勝手に僕の頭に浮かんだのが窪田さんでした。

窪田 ありがとうございます!

齊藤 しかもふたを開けたら、このキャスティングが決まる前に、原作者の神津先生も、窪田さんを主人公としてイメージした作品を書かれていたそうなんですね。それを聞いた時に、先生が『スイート・マイホーム』で賢二という主人公像を描く際に、窪田さんの残像みたいなものが組み込まれていたんじゃないかなと推測したんです。そういう偶然のような必然という流れが僕の中にあり、「窪田さんに出演していただけるのなら、監督を引き受けます」とお返事させていただきました。要は、最初から窪田さん次第という思いがあった、ということですね。

窪田 本当に光栄です。僕としては工さんが台本を読んだ印象や、製作段階のことなどをお聞きしたかったので、まず直接お話しさせていただきました。以前ドラマを一緒にやらせてもらっていて、その頃から「工さん、撮ればいいのに」と冗談半分で言っていたんですよね。今回それが実現したということで、もう安心感しかなかったです。

齊藤 ありがたいです。

窪田 監督としての工さんは、すごく自由に僕らを泳がせ、環境やフィールド作りを丁寧にしてくれる人でした。プレイヤーでもあるので、プレイヤー側の気持ちを誰よりも汲んでくれるんですね。芝居や表現以外のストレスを与えない現場作りをしてくださったことに救われました。

齊藤 そう言ってもらえて嬉しいです。

「斎藤監督は芝居や表現以外のストレスを与えない現場作りをしてくださった」と語る窪田さん