苦しい経験も糧になる

──第2作は田畑氏との再婚を入り口に女性の人生の選択について記した「再婚自由化時代」(1963年)。このなかに「人生のつまずきは、さらに新しい人生へ向う一つの契機にほかならない」という一文があります。その後、佐藤さんは田畑氏の破産が原因で離婚、その借金を自ら返済するなどたくさんの苦難を越えてこられました。つまずきから立ち直るために必要なものとは何でしょうか。

「再婚自由化時代」(『婦人公論』1963年12月号より)

「忍耐だけで成立っている結婚生活をしているよりは、別れた方がよい。別れて一人で無理な頑張りようをしているよりは再婚した方がよい」

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そんなものありませんよ。だって、つまずいたら起き上がるしかないわけでしょう? 倒れっぱなしっていうことはないんですから。人間は自然に起き上がって次の人生に向かって歩き出すものなんです。

またつまずくかもしれませんよ。私みたいに深く考えない人は、つまずきが多いの(笑)。だけど、つまずきをマイナスだと思わなきゃいいだけの話。つまずきのない人生なんてあるわけないんですからね。

夫の会社の倒産で私が借金を肩代わりしたことも、つまずきとは思ってないですよ。あのとき私はそうしたかった。それだけのことです。

 

──田畑氏との離婚後のエッセイ「三人目の夫を求めます」(1971年)では「心の柔軟性を保つために(三度目の)結婚したい」と書いています。結婚は女性にとってどういうものと考えていらっしゃいますか。

「三度目」は文章の行きがかり上書いただけで、現実にはありませんよ(笑)。

ただ、柔軟性というのは経験の量から生まれますから、苦しい経験も大いにしたほうがいいと私は思っています。

娘が結婚するときに、「酒もタバコもやらん堅い男をムコにすれば、一生安泰」という親心は、間違ってると思うんですよ。結婚生活というのはそれまで思ってもいなかったようないろんな経験、つまりは修業をすることになりますから。

ひとりでいたって大変なことはありますよ。でも結婚したほうが、それまで思いもよらなかった他人の考えと衝突して、たくさんの経験をすることになる。

他人と生活を共にするってことは、経験のし甲斐があると私は思っていますね。どんなに大変な目に遭ったとしても。

「三人目の夫を求めます」(『婦人公論』1971年7月号より)

「一度、二度と経験したことによって、私は自信が出来た。二度と失敗せぬという自信ではない。失敗しても平気、という自信である」