腎臓リハビリの例

私は、長年、東北大学病院に籍を置き、慢性腎臓病に対する運動がもたらす改善効果について研究を続けてきました。

そこで開発したのが、「腎臓リハビリテーション」(以下、「腎臓リハビリ」)です。

腎臓リハビリを用いた私たちスタッフの研究成果は、今や世界的に認められるようになりました。日本では、このリハビリに健康保険の適用が認められるほどです。

私たちの研究などで、治療方針が、「安静第一から運動推奨へ」と、大きく転換されたのです。

腎臓病の治療において、「コペルニクス的転回」ともいわれるほどの革命が起きたと評価してくださる医師や研究者、医療スタッフも、世界中にたくさんいます。

そうした声も嬉しいのですが、私が何より喜んでいるのは、不安や心配で押しつぶされそうになっていた多くの患者さんが、腎臓リハビリによって生き生きとした毎日を手に入れられたことです。

ここで、そうした例を簡潔にご紹介してみましょう。

Iさん(75歳・女性)は、今から35年前の40歳のとき、慢性腎臓病のステージG3aとの診断を受けました。Iさんは食事にも配慮しながら、運動療法の一環として自分の好きな山歩きを続けました。

現在のeGFRの値は57(基準値は60以上)。ステージこそ変わっていませんが、35年間、さらなる腎機能の低下は起こっていません。

これ自体、すばらしいことです。しかも、以前は見られた血尿は出なくなり、尿たんぱくも出てもごくわずかです。

長年にわたり、根気よく歩き続けてきたことが、Iさんの腎機能の維持に大きく貢献していることは間違いないでしょう。