その女子校の先生が教えてくださった。
「主の祈りは、中央線の四ツ谷駅と信濃町駅の間にあるトンネルの中で、ちょうど唱え切ることができるのですよ」
その話を聞いて以来、電車に乗って四ツ谷駅と信濃町駅の間のトンネルに差し掛かると、慌てて主の祈りを唱え始める。ゆっくり唱えると、最後の「アーメン」を言う前にトンネルを出てしまう。さりとて早口にし過ぎると、トンネルを出る前に祈りが終わってしまう。この按配が難しく、また面白く、何度も試した記憶がある。
娘時代を過ぎ、歳を重ねるに従って、記憶が曖昧になり、三行目あたりでつっかえるようになった。でもおおかたは覚えているものだと、いつも安堵した。
子供の頃、それがどういう意味で何を言っているのか理解できなくとも、「とにかく暗記しろ」という教育が多かったように思う。校歌も「君が代」も「主の祈り」も、突き詰めて考えると、よく理解できていない箇所がところどころにあったが、なぜか今でも前頭葉にしっかり保管されている。