プロの作家になりたいとも、なれるとも思っていなかったのですが、最初に応募した作品が三次選考まで残ったので驚きました。受賞には至らなかったものの、倍率1000倍のなかで数十人に残ったということは、なにかしら意味があるのではないかと感じて。

ただ、やはり「面白い小説を書きたい」「作家になりたい」という思いはなく、ただ次から次へ浮かんでくる物語を文字にしていくだけでした。

書く時間のために日常生活が圧迫され、ついには救急患者の診察中にも、執筆中の小説の続きが頭に巡っていることに気づいてゾッとして。このままでは医療事故を起こしてしまうと思い、勤めていた病院は辞めざるをえなくなりました。

それからは、非常勤医師として週に数日働きながら、ほかの時間をすべて使ってひたすら小説を書く日々。2021年に林芙美子文学賞を受賞してデビューを果たす前の数ヵ月は、非常勤さえ辞めて完全な無職でしたね。

「生活のほとんどを書くことに注いでいるんやから、せめてプロくらいならせてくれ」という切迫した思いで書いた作品でデビューすることができたのです。

後編へつづく