和歌の節回しを猛特訓
――和歌といえば、「黒髪の みだれもしらず うち臥せば まづかきやりし 人ぞ恋しき」という自身の恋歌を、ジェスチャー付きでまひろに聞かせたのも印象的なシーンでした。「あの夜、この髪をかき撫でてくれた人が、恋しくてたまらない」という有名な歌ですよね。
あの時代としては大胆な表現を使っているところに、彼女らしさが表れていると思います。だから情景が思い浮かぶし、彼女の心情や情熱がストレートに伝わってくる。
あのシーンでの、自分の髪を撫でるような振りは、監督の演出です。このドラマの和泉式部は感性豊かなキャラクターなので、踊るようなしぐさで和歌を詠み上げるんですよ。
和歌の節回しは、かなり練習しましたね。リズムや間の取り方はもちろん、歌の意味や詠まれた背景などを先生に教えていただき、さらにそこに感情をのせて……。流れるような節をつけたり、音を消すように音程を下げたり、と、いろいろな決まりがあるのですが、これが難しくて。歌が出てくる場面の撮影では、毎回、リハーサルの前に歌を練習する時間を設けていただきました。
――和泉式部の和歌のなかで、特に好きな歌、気になる歌はありますか。
「あらざらむ この世の外の 思ひ出に 今ひとたびの 逢ふこともがな」です。(もうすぐ私は死んでしまうでしょう。あの世へ持っていく思い出に、もう一度だけお会いしたいものです、という意味)
百人一首にも入っている有名な歌ですが、恋に生きた彼女の人生そのものを表しているのではないでしょうか。「死ぬ前に、あの人にもう一度会いたい、抱かれたい」という「あの人」は誰だったのだろう、などと、想像を掻き立てられます。
今と違って、平安時代の貴族の恋愛では、相手と簡単に会うこともできない。だから、『光る君へ』のまひろと道長のように、月を見上げてお互いを想ったり、歌を交わしたり。歌に想いをのせて恋人に贈るなんて、雅で素敵だなあと思います。
――そんな恋の歌に、1000年後の私たちも感動する。和泉式部や紫式部の才能はすばらしいですね。
本当ですね。そんな和泉式部を演じられたこと、この役に巡り合えたことを、とてもありがたく思っています。だからこそ、「丁寧に演じ上げたい」という気持ちが強かったんです。