情報が漏れた時の対応方法

西村 ここで話せる?

『記者と官僚――特ダネの極意、情報操作の流儀』(著:佐藤 優、西村 陽一/中央公論新社)

佐藤 話せる。新聞社と記者の名前は伏せるけど。

何せ漏れてはいけない情報が漏れたわけで、報道課では手に負えず、総務課に話が行ったんだ。それを聞いて当時総務課の首席事務官だった秋葉剛男さん(のちの国家安全保障局長)は真っ青。当時私は秋葉さんとあまり面識はなかったんだけど、私がその記者と面識があるということで呼ばれていった。

その記者は酒癖がよくなくて、いくつか個人的なトラブルを起こしていた。そこで私は秋葉さんに「脅しますか?」と率直に聞いた。「脅すネタならいくつかあります」と。でも秋葉さんは立派だからさ。「佐藤さん、脅すという手段はやめよう。情報を漏らしてしまったこちら側が悪いんだから」と言ったんだよね。

西村 ずいぶんと紳士的だね。

佐藤 それからペンタゴン・ペーパーズの件(1945年から1967年までのアメリカのベトナムへの政治的、軍事的関与を記した文書。極秘文書だったが1971年に文書を書いた一人のダニエル・エルズバーグがニューヨーク・タイムズ紙にコピーを渡し、同紙が一面に掲載、ベトナム戦争の舞台裏を暴く一大スキャンダルとなった)を例に出して、「記者としては、情報を知ったら書かないといけない。それが仕事だから。

しかし、この情報が一面に出たら、この先仕事がしにくくなるのは現場の佐藤さんたちだ。だからそこは脅すという方向ではなく、誠実に話し合い、お願いベースで扱いについて配慮してもらえるようになんとかならないか」と。

西村 外務省からジャーナリズムの金字塔のペンタゴン・ペーパーズを持ち出してくるとは驚いた。しかし、だんだん「ロジック」がわかってきたぞ(笑)。