そしてちょうど「紅天女」のお酒ができ上がる頃、京都に旅行中の蔵元の奥様から、突然お電話がありました。嵯峨野(さがの)のあるお寺に祀られている大黒天の仏像が、漫画の「紅天女」とそっくり同じ伝説を持っているというのです。
漫画では南北朝の時代ですが、その大黒天像にまつわる話は、応仁の乱の頃。戦乱で荒れた世を憂える京の天皇の夢枕に、大黒天が現れ、我が姿を仏に彫って祀れば世は平安になるだろうとのお告げ。ここまでそっくりです。漫画では美しい天女、ということになっています。
さらに漫画では千年の梅の木で天女像を彫ろうとする一人の仏師が出てきますが、その仏師のいるところが嵯峨野の荒れ寺。大黒天が祀られているお寺も、もとは荒れ寺だったそうです。もちろん、慌てて京都に参拝に行きました。
今もそのお寺の大黒天の前には、『ガラスの仮面』全巻と、日本酒の「紅天女」がお供えされています。
耳に残った歌声からご縁が始まって
2020年の1月には、この「紅天女」をオペラにした『歌劇 紅天女』が上演されます。そして実はこのオペラにも、梅の古木以上に不思議な巡り合わせがあったのです。
たしか25年くらい前だったと思います。テレビで、三菱自動車の“ディアマンテ”という車のCMが流れていて。そのBGMに使われていた曲の美しい歌声が大好きで、CMが流れるたびに耳をそばだてていました。放送が終わっても忘れられずにいたのです。
それからしばらくして、『アマテラス』という自身の作品のイメージアルバムを作ることに。作詞家の森由里子さんが作品に惚れこんでくださって、プロデューサーとして企画してくれました。さまざまな歌手の方にオファーをしていくなか、スタッフから「最後の1曲をオペラ歌手の方に歌っていただくのはどうでしょう?」という提案が。
私は「オペラの方なんて敷居が高すぎる」と思ったのですが、続く「郡(こおり)愛子さんという方にお願いしてみようと思っているんです。少し前に、三菱のディアマンテのCMで歌っていらした方なんですけど」という言葉にびっくり仰天。「それは、ぜひお願いしてください!」と即答しました。
その後、イメージアルバムは無事に完成。郡さんからはたびたび、リサイタルにお招きいただくようになりました。
また2000年には、友人の日本舞踊家が、自分のリサイタルで「紅天女」を踊りたいというので、以前、漫画用に書いていた台本の中から紅天女の台詞をコラージュ。それをもとに作曲を寺嶋民哉さん、唄を郡さんにお願いしました。こうして「紅天女」の音楽ができ上がったのです。