サンタクロースも、ツリーもイエスとは無関係

サンタクロースの原型は、4世紀頃に東ローマ帝国のもとにあった小アジアにいたキリスト教の教父、聖ニコラウスとされる。キリスト教の聖人である点で、キリスト教の信仰と結びついている。だが、聖ニコラウスとイエスのあいだに直接の関係はまるでない。しかも、聖ニコラウスが現在のサンタクロースの姿をとるようになったのは、19世紀になってからとされる。

クリスマス・ツリーについても、すでに述べたユールに由来するという説がある。少なくとも、イエスの物語にクリスマス・ツリーにあたるようなものは登場しない。イエスは十字架にかけられて処刑されたものの、クリスマス・ツリーは松やモミなど常緑樹か針葉樹で、十字架を象徴するものではない。

もちろん、教会では、クリスマスにミサが行われるが、ヨーロッパの人たちにとって楽しみなのは、クリスマスの期間にだけ開かれるクリスマス・マーケットに出かけていくことである。これは、日本で言えば、縁日のようなもので、そこに出かけた人々は、食事や買い物に興じる。家庭では、クリスマスの豪華な食事に舌鼓を打ち、子どもたちは、靴下を吊(つ)るして、プレゼントを貰えるようにする。靴下にプレゼントを入れるのは、サンタクロースではなく、親たちである。

このように、ヨーロッパでは、クリスマスという行事が、イエス・キリストとは無関係な形で作り上げられていった。日本人が取り入れたのも、こうしたキリスト教にとっては異教の行事を元にしたクリスマスの祝い方である。

その点で、日本人自身が、キリスト教徒でもないのに、クリスマスを祝うことにコンプレックスを抱く必要はどこにもない。クリスマスの原型は、新しい年の訪れを祝う冬至の祭であり、だからこそ日本人はそれを受け入れた。

クリスマスとは、キリスト教が作り上げ、世界全体に広がった祭であり、イベントである。それは、キリスト教のはじまりに位置するイエス・キリストの誕生した日を祝うものとはされているが、そのことはキリスト教の世界でもあまり重視されていない。むしろ、楽しみの要素の方が強くなっている。キリスト教の信仰がそこにかかわるかも定かではない。キリスト教徒は、なぜ異教の祭であるクリスマスを祝うのか。問うべきは、むしろそのことである。

◆『神社で拍手を打つな!』好評発売中です

 ●神社の「二礼二拍手一礼」は伝統的な作法なんかじゃない!
 ●除夜の鐘を全国に広めたのはNHKだった!?
 ●初詣は鉄道会社の営業戦略だった!
 ●郊外の墓参りはバブルが生んだ年中行事!
 ●結婚式のご祝儀もお葬式の半返しも伝統なんかじゃない!
 ●そもそも、クリスマスはキリスト教と関係がない!


日本人が「しきたり」と思っている行事には、ごく最近生み出されたものが少なくない。私たちは「しきたり」とどう向き合えばいいのか。