朧月夜の扇

夜が明けます。朧月夜は最後まで名を明かしません。

「たとえ、わたしが恋死(こいじ)にしても、あなたは、わたしが誰だかわからないと言って、訪ねてくださらないでしょうね」と、源氏へ歌いかけます。

女房たちが起きだします。二人は別れなければなりません。

源氏は自分の扇と、朧月夜の扇を取り替えます。次に会えたときの、目印にするためでした。

朧月夜の扇には、水に映った月が描かれていました。

※本稿は、『美しい原文で読む-源氏物語の恋のことば100』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

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美しい原文で読む-源氏物語の恋のことば100』(著:松井健児/中央公論新社)

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