(写真提供:Photo AC)
現在放送中のNHK大河ドラマ『光る君へ』。吉高由里子さん演じる主人公・紫式部が書き上げた『源氏物語』は、1000年以上にわたって人びとに愛されてきました。駒澤大学文学部の松井健児教授によると「『源氏物語』の登場人物の言葉に注目することで、紫式部がキャラクターの個性をいかに大切に、巧みに描き分けているかが実感できる」そうで――。そこで今回は、松井教授が源氏物語の原文から100の言葉を厳選した著書『美しい原文で読む-源氏物語の恋のことば100』より一部抜粋し、物語の魅力に迫ります。

源氏の言葉

<巻名>花宴

<原文>まろは皆人(みなひと)にゆるされたれば

<現代語訳>わたしはすべての人にゆるされているのだから

宮中での桜の宴(えん)が終わった夜、源氏は藤壺(ふじつぼ)に逢いたいと思い、後宮の殿舎へ向かいました。

しかし源氏が出会ったのは、右大臣の姫君である朧月夜(おぼろづきよ)でした。源氏は暗闇のなかで出会った朧月夜を抱きかかえ、そのまま奥の部屋に入ってしまったのでした。

朧月夜は「ここに誰か……」と助けを求めますが、それに対しての源氏の言葉が、「わたしはすべての人にゆるされているのだから、少しも困りません。どうぞお静かに」というものです。

なんという、ふてぶてしい言い方かと思われます。皆人(みなひと)が源氏をゆるしているのではなく、源氏が自分をゆるしているのです。源氏の自信と、傲慢さのあらわれです。