悪徳が美徳に転じる瞬間
こうした悪事をはたらく若者、悪漢といわれる人物を主人公とする物語のジャンルに、ピカレスクノベルがあります。
それらはおもに、下層の悪漢の語りでしたが、ここではむしろ、古代物語の貴族が持つ悪を、ある種の美徳として語ろうとしているようです。悪徳が、美徳に転じる瞬間です。
朧月夜はこのような、あざやかな不良少年と出会ってしまった、良家のお嬢さまという類型を生きることになります。
しかもこのとき朧月夜は、皇太子の後宮に入ることを予定されていました。
ただ、こうも思われます。
親の決めた結婚の道を進まなければならない良家の女子にだって、このように危険な出会いがあってもよいではないかと。
語り手も、そう思っていたのではないでしょうか。