イラスト:川原瑞丸
思ってた未来とは違うけど、これはこれで、いい感じ。コラムニストかつラジオパーソナリティにして「未婚のプロ」、ジェーン・スーは女の人生をどう切り取るのか? 1月9日に発売になる新著『これでもいいのだ』(中央公論新社)から、疲れた心にじんわりしみるエッセイをセレクトします

「いいなあ」と声が漏れるけど

フランス人の男性と結婚して、海外県に暮らす高校の同級生がいる。海外県は、フランスが欧州以外に所有する土地の総称。彼女が夫の転勤でインド洋に浮かぶレユニオン島に移住して初めて、私はその存在を知った。

エメラルドグリーンの海、白い砂浜、大きな夕陽。フェイスブックにアップされる彼女の写真には、いつも圧倒されてばかりだ。朝の散歩で野生のマンゴーを拾ってきたかと思えば、家の庭にはバナナの木が生えている。まるで、毎日がバカンスではないか。思わず「いいなあ」と声が漏れる。

縁もゆかりもない小さな島で、毎日をつつがなくやっていくのは、決して楽な仕事ではないだろう。私には想像もつかないような苦労があるはずだ。よく停電してるし。

もはや便利を便利と認識もできない私がうらやんだところで、彼女にしてみれば「こっちはこっちで、大変よ」と言うに違いない。それでも、彼女はとても幸せそうに見える。その笑顔はまるで、フローネのようだ。

フローネは、私が子どものころテレビの世界名作劇場で放送されていた『ふしぎな島のフローネ』の主人公。海上で遭難した家族が、大自然に翻弄されながらも、力を合わせて無人島で生活する物語だ。

『これでもいいのだ』(ジェーン・スー:著/中央公論新社)

誰かと家族になって、想像もしない土地に移り住む。無人島に流れ着くわけではないけれど、とてもドラマティックなことに思える。そういう人生に憧れないこともないが、「家族だから」という理由でどこへでもついて行くのは、私には到底難しい。

夫の海外赴任を機に仕事を辞める女性は、まだまだ多いと聞く。仕事の断絶は、私にとって死亡宣告に近い。行った先で働こうにも、配偶者ビザで満足いく就労は難しく、基本的には、家庭で家族を支えるのがメインの役割になる。

あと十年もすれば、これは女に限った話ではなくなる。というのも、これまでは「稼ぎが良いのは夫の方」が多数派だったため、妻の人生は夫の手になかば委ねられていたが、本質的には、「男女にかかわらず、経済力のある方が、もう一方の人生を固定する」傾向にあるのが家族なのだ。

稼ぐ女にしてみれば、同じ程度の稼ぎの男のために、なぜキャリアを捨てなければいけないのか、理解できない。しかし、社会の変化に社会通念が追い付いてない。男についていくのが、いい女だとされている。これが受け容れ難く、婚期を逃す女をたくさん見てきた。