数日後、観察にいくと、鳥の糞のようだった黒い幼虫が、鮮やかな緑色に変身しているではないか。緑色の身体を覆う白や黒の節々のライン、目とおぼしき黒い点、そして全体の形状の美しいこと。芸術作品としか思えない。
「彩ちゃん、アゲハの幼虫がね」
秘書アヤヤに感動を伝えると、たちまち目をつぶり、顔をそむけて、「私、無理です」。
一緒に成長を見守ろうと思ったが、断念。
さて二日ほどモソモソ葉をっていた九匹の青虫たちはとうとうレモンをすっかり裸にしてしまった。大きさも三センチほどに成長している。食べるものがないと悟ったか、枝から降りて植木鉢のまわりをウロウロし始めた。他の住処を探しているのかもしれない。
ネットで調べたところ、卵を産み落とした黒白アゲハはナミアゲハと思われる。この種類の幼虫は柑橘系の葉しか食べないらしい。柚子やみかん、あるいはサンショウの木の葉を好むらしいが、残念ながらウチにはレモンの木以外、柑橘系の灌木はない。
どうしよう……。と、迷ううちに、植木鉢のまわりをウロウロしていた青虫が姿を消した。どこをほっつき歩いているんだ?
大捜索の末、六匹を発見した。
バルコニーの床をウロウロしていた二匹。沈丁花の枝にしがみついていた一匹。残る三匹は、なんとコンクリートの壁に張りついて、背筋を伸ばしている。サナギになる準備をしているのかもしれない。でもコンクリートの壁で大丈夫なのか? 生木のほうがいいんじゃないの? ほら、こっちに移りなさい。お箸でつまんで転居させようとしたが、粘膜でしっかり壁と密着し、剥がすことができない。