帰宅して驚いた。コンクリート壁にへばりついてサナギになる準備をしているとばかり思っていた青虫二匹が黒ずんでいる。どう見てもサナギの姿ではない。干からびている。

さらに観察を続けると、沈丁花の枝に止まっていた青虫の様子もおかしくなった。ご臨終が近い気配がある。ああ、こんなことなら無理やりにでも引き剥がして、住み心地のいい柑橘の木に移住させるべきだった。

落胆していると、おやおや、七匹目の青虫。排水溝の小枝にしがみついていた。まだ鮮やかな緑色をしている。息もある。コイツだけは生き残らせたい。

私は最後の生き残りをお箸でつまんで小箱に入れた。敵が来たと思ったか、青虫はオレンジ色の角を二本突き出して、悪臭を放った。敵から身を守る術なのだろう。

「わかった、わかった。ちょっと我慢してね」

私は小箱を持って家を出る。歯医者さんからの帰り道、ビルの横にみかんの木を見つけたからである。木のそばへ寄り、小箱から箸で青虫をつまみ上げ、葉っぱの上に乗せる。

青虫は動こうとしない。が、まもなくのそのそと前進し、そしてゆっくり頭の先をかがめ、みかんの葉っぱを齧り出した。

やった! これできっと元気になるだろう。

私は蚊に食われた箇所を掻き掻き、みかんの木をあとにした。その後の消息はわからない。ただ生き延びよと祈るのみである。


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