私は子供の頃、虫めづる姫と呼ばれるほど虫とよく遊んでいた。
カマキリを捕まえて家に持ち帰ったり、蓑虫の蓑を剥がして中を覗いたり、団子虫を手のひらに乗せて転がしたり、カタツムリの角を突っついて遊んだり。
でも今の都会の子供、いや大人も、虫と接する機会はなくなったのだろう。馴染みがないから怖がる。それはしかたのないことだ。半ば諦めの心境で翌日、歯医者さんへ行く。
「もしかして、お宅のお子さん、アゲハの幼虫なんか、興味ないですかね?」
遠慮がちに訊ねたら、
「あ、興味あると思います」
実はその日、我が家で発見した青虫三匹(コンクリート壁から剥がすのに成功した一匹を含め)を小さな紙箱に入れて持ち歩いていた。どこかに柑橘系の灌木があったら、その枝にそっと置いてこようと企んでいたのである。
「え、引き取っていただけますか?」
感動した。ほらね、そういう家族だっているんだぞ、虫嫌いの者どもよ!
治療を終えたあと、忙しい歯医者さんを引き留めて箱を手渡しながら早口で詳細を説明。柑橘系の葉っぱを与えてくださいと言い残し、家に戻る。