全本場所がチケット完売
九州場所では、平成8年から28年ぶりに15日間のチケットが完売したそうだ。これで今年は全本場所がチケット完売。大相撲が注目を集めるのは喜ばしい。
花道に登場した大の里の前に、先場所13日目に引退した元大関・貴景勝の湊川親方が場内警備のために立っていた。湊川親方は、小学3年生から横綱になることを目指し、幕内優勝は4回した。首の怪我に耐えながら必死に頑張っていて、その苦労が優秀な弟子を育てるための原動力になると思う。
ショックだったのは、10月22日に元大関・旭国の太田武雄さんが77歳で亡くなったことだ。とったり、下手投げ、上手出し投げなどが得意で、食いついたら離れないという意味で「ピラニア」と呼ばれていた。研究熱心だったので「相撲博士」とも言われていた。横綱・旭富士(現在の伊勢ケ濱親方)を育て、モンゴル出身力士の活躍の道を開いた。私が大ファンの元大関・貴ノ花様(元横綱の若乃花と貴乃花の父親。私の最高の崇拝力士なので「様」をつけている)と旭国は仲が良かった。旭国は内臓疾患に苦しみ、貴ノ花様も内臓が弱かったので、お互い励まし合っているのだと相撲雑誌に書いてあり、巡業で一緒にいる写真が相撲雑誌に掲載されると、私は切り抜いて壁に貼り付けていた。まだその雑誌を読んでいない母に切り抜いたことを叱られた。
旭国が活躍している当時は、国技館の警備がゆるく、私は館内の一番上のチケットが安い席で1人で見ていたが、貴ノ花様と旭国の出番になると、1階の通路で立ち見をした。ある時、正面の通路に行くと元関脇・陸奥嵐の安治川親方が場内警備で立っていた。陸奥嵐のつりは豪快で、「天井を向いて相撲を取る」と言われていた。私が通路で立って見ていたら、親方に「だれのファン?」と聞きかれた。「貴ノ花と旭国です」と言うと、「もう少し前で警備するから、俺の足元に坐って見ていいよ」と言われた。
その通りにしたら、「旭国はとったりがうまくてね」とその技とド根性を解説してくれた。勝負が終わると、「あれ、おかしいぞ、俺こんなに金を使っていないぞ」と、私の頭上で親方の声がした。親方はポケットから銀行の通帳を出して眺めていたのだ。私は、「お酒を飲んじゃったんじゃないですか?」と言った。親方は「えっ、俺、こんなに飲んだか?こんなに金をおろしたのか?いや、あの時はあいつとあいつがいて…やはり飲んでる。まずいなあ」とぼやいていた。旭国の訃報から、陸奥嵐と昭和の良き時代を思い出した。