虐待行為のベースにあるのは「不適切ケア」だ。17種類あるというその行動は、「だます」「できることをさせない」「子ども扱い」「脅かす」「レッテルを貼る」「汚名を着せる」「急かす」「その人の実感を認めない」「仲間外れ」「もの扱い」「無視する」「無理強い」「放っておく(後回し)」「非難する(責める)」「中断させる」「からかう」「軽蔑する(自尊心を傷つける)」。

たとえば認知症の人に繰り返し同じことを聞かれ、何度目かに聞こえないふりをして受け流すのは、不適切ケアの範疇だろう。だが最初から本人の呼びかけを一切無視して、あたかもそこにいない人のように振る舞えば、これは虐待だ。

「もうひとつ注意しなければいけないのは、『私は介護者なのだから、思った通りにしてもいいのだ』と考えた瞬間です」と、高口さん。「介護するためには動くと危険だから縛ってもいい」「息子なのだから本人に代わって判断し、面倒な介護サービスなど受けさせなくてもいい」など。葛藤やストレスなしで起きる不適切ケアを虐待ということもできる。

 

愚痴を聞いてもらう機会と場所を

では、どうしたら虐待を防ぐことができるのだろうか。高口さんは、以下のように提案する。

まずは虐待がどのように起きるのか、その構図を知ること。そして家族の会や相談会などを利用して愚痴を聞いてもらう。体験者の話を聞く。あるいは体験談を本で読む。そうしてこれは自分だけの問題ではないと知り孤独を癒やし、孤立しないことだ。

特別養護老人ホームの生活指導員を経て、極力おむつを使用しない「おむつはずし」などの新しいケアを提案し続ける「生活とリハビリ研究所」代表の三好春樹さんはこう語る。

「医師、訪問看護、ヘルパー、理学療法士のリハビリ。たくさんの専門家に囲まれるのが“いい介護”だと、みなさん勘違いしている。しかしこれは、すべて何かを“してあげる”という一方的な人間関係です。要介護状態になると、本人を巡る人間関係はたいていこのように乏しく一方的になってしまう。同様に、介護する側の人間関係も乏しく一方的になる。そういう土壌に虐待が生まれやすいのです」