そこで重要になるのが、上下ではなく横の関係だ。たとえばデイサービスで一番良いのは、友人や知人ができることだと三好さんは言う。

「介護職も医療者も、いわば権威の塊。介護家族だって若くて元気というだけで本人にとっては権力になります。だからそうでないフラットな人との出会いをどれだけ作れるかが大切。デイに行きたがらないお年寄りも多いですが、何ヵ所か試してみて、仲間ができると変わるんですよ。デイに限らず、どんな機会や場所でもいいので、本人にとっての豊かで創造的な人間関係を作ること。それが介護する人にとっても大きなプラスになります」

 

悲劇を防止するために

前出の野田さんが勧めるのは「頑張りすぎない介護」だ。野田さんの介護生活に密着したドキュメンタリー映画『和ちゃんとオレ』では、野田さんが和子さんの尿パッドを毎回量りに乗せて排泄量をノートに書き込む姿が映し出される。

「男性の介護者には、わりと僕のようなことをする方も多いです。グラフをつけたりして、仕事のようにひとつのプロジェクトとして頑張ってしまう。でも細かすぎ、頑張りすぎると介護はつらくなります。あれもしなければ、これもしなければと、しなくてもいいことまで考えて自分を追い込んでしまう。在宅の場合は、ちょっと手を抜いても死ぬわけじゃない、というぐらいのんびりした気持ちでいるほうが虐待は起こりにくいと思います」と野田さん。

これは決して特別な人にだけ起きる問題ではない。相手への思いがすれ違い、虐待を生むこともある。合理的だと判断してやっていることが、虐待に当たる場合もある。しかし、その仕組みを知ることによって悲劇を防止することも可能だ。

介護には必ず終わりがやってくる。抱え込まず、無理をせず、残された一緒に過ごせる歳月を一日一日、大切にできればと思う。