虐待を生む介護ストレス

介護の一番の毒(ドク)は「孤独(コドク)」だと指摘するのは、介護アドバイザーとして活躍する介護福祉士の高口光子さんだ。

「お年寄りが病気や加齢によって、今までの生活を送ることができなくなる。それでも何とか今まで通りの生活を守りたいと、本人やご家族が頑張り始めます。そのために『時間』『空間』『人間関係』を必死に組み替えようとする。たとえば要介護者に合わせて、起床・就寝や食事の『時間』を変える。これを機に同居しよう、部屋を交換しようと『空間』を変える。今まで庇護者だった親と子どもが逆転し、『人間関係』の立ち位置が変わる。これらの組み替えに伴う混乱が介護負担を生み出します」

そうしたなかで気力・体力の落ち込みなどをきっかけに、「いつまで、何のためにこれが続くのか」という問いが浮かんでくることがある。その上で、「人は人の思い通りにならない」「人は人を思い通りにしてはいけない」という人間関係の鉄則を逸脱する場面に直面した時に、介護ストレスが生まれるのだという。

「あなたのためにやっているのに、なんで食べないの。なんで横にならないの。なんでお風呂に入らないの。こうやって相手を操作しよう、思い通りにしようとすることこそがストレスなのです。でもそれは家族という濃い人間関係ゆえに生まれる健全なストレスで、決して異常なことではありません。一所懸命な人ほど持ちやすい感情的な動きです」

しかしストレスが積み重なり、そこに「どうせわかってもらえない」という「孤独」と、人から見られない密室性という「孤立」が重なった時、虐待が生まれる。

「家族の会などで、『この人はいつまで生きるんだろうなんて、介護家族なら誰でも一度は思ったことがありますよ、プロだってたまに思うことがあります』と言うと、つーっと涙を流される方がたくさんいます。ここまでは自然な感情なのです。ところが孤独で孤立したまま、どうせわかってもらえないのなら叩いて『わからせてやろう』、あるいは縛っても閉じ込めても、どうせボケているのだから『わかりゃしない』と思う。この二つの動機でおこなう行為が虐待です」