私は、器楽合奏の指導に情熱を燃やしていた。ハーモニカ、鍵盤ハーモニカ、木琴、アコーディオンで主旋律を奏で、大太鼓、小太鼓、シンバル、タンバリン、カスタネット、トライアングルなどでリズムをとる。クラス全員でひとつの曲を仕上げることで、友情を深めていくことを願った。

実際、子どもたちも「いままでできなかったことができるようになる」ことに喜びを見出し、成長しているように感じた。試行錯誤を重ね、次の学びに繋げるだけでなく、互いの音に耳を澄ませ、合わせることで、思いやりの心が育っていったように思う。毎日大阪会館で開かれた器楽合奏のコンクールにも参加し、得難い体験をすることができた。

それから5年後のことである。教え子のIくんが発起人となり、はじめての同窓会が懐かしいK校で開かれた。当時私は72歳。子どもたちは60歳を過ぎていた。会場には懐かしい曲が流れている。あのときのコンクールで演奏した曲だ。

「先生、私コーラス部に入っています」
「僕はギターを弾いて楽しんでいます」
「お城の塔をみんなで歌いましょう」

みんな器楽合奏のことをよく覚えてくれていた。音楽を、その後の人生の楽しみにしていることも嬉しかった。

友情はなにかを動かし、なにかを変える。風神が持つあの大きな風袋に、みんなで一緒に情熱や思いを吹き込んで、大きな風を起こすのだ。人生が行き詰まったとき、その風袋はきっと役立つことがある。

後編につづく


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