イラスト:川原瑞丸
思ってた未来とは違うけど、これはこれで、いい感じ。コラムニストかつラジオパーソナリティ、ジェーン・スーは女の人生をどう切り取るのか? 1月9日に発売の新著『これでもいいのだ』(中央公論新社)から、疲れた心にじんわりしみるエッセイをセレクトします

プラスサイズモデルの人気

モデルになりたいなら、一般人よりうんと痩せていないとダメ。

古い、古すぎる。そんな考え方は、せいぜい二十一世紀最初の十年まで。もう、とっくに終了しているトレンドだ。

嘘だと思うなら、“Ashley Graham” の画像を検索してみてほしい。画像のバリエーションを楽しむため、敢えてアルファベット表記でググることを忘れずに。あなたは彼女の美しい肉体に驚き、魅了され、自信に満ち溢れた笑顔にノックアウトされるだろう。

アシュリー・グラハムは、押しも押されもしないアメリカのトップモデルだ。一般的なモデルとは異なり、かなりふくよかな体つきをしている。お腹も出ているし、脚にも二の腕にも、たっぷり肉がついている。お尻なんてハチャメチャに大きいし、太ももには当然、セルライト。フォトショップされた写真もあるけれど、インスタグラムでは、アシュリーはそのままの写真を投稿している。

『これでもいいのだ』(ジェーン・スー:著/中央公論新社)

日本サイズで言えば、アシュリーは十九号。一般的な洋服売り場には置いていない、俗に言う“デブ”のサイズだ。しかし、“デブ”で片付けられるのは、日本だけのお話。プラスサイズモデルの地位が高いアメリカでは、彼女の人気はうなぎのぼりなのだ。ここ数年は、トークショーや授賞式のレポーターなど、テレビタレントとしても活動している。

大きな体の持ち主のひとりとして、私もアシュリーに夢中だ。彼女の写真を集めたり、動画を見たり、彼女がモデルを務めるブランドで、水着を新調したりした。美しいアシュリーを見るたびに、私まで誇らしい気持ちになる。

さて、先日のことである。試着室の鏡に映った下着姿の私は、なんとアシュリー・グラハムだった。

一般的には「太った」の一言で片づけられる事態なれど、並々ならぬ興奮が私を襲った。強い憧れは、やがて具現化する。普段ならガクンと落ち込む場面で、鼓動が高鳴った。だって、モデルのアウトラインに自分の輪郭がぴったりとハマることなんて、生まれて初めてだったから。