高校卒業後はとにかく基礎を身につけようと、日本映画学校を経て、和田勉さん主宰の俳優養成所で学びました。その途中でオーディションを受けてデビューが決まったのです。それが、今村昌平監督の映画『カンゾー先生』(1998年)。

今村監督は親父と親友でしたから僕のことをご存じでしたけど、それでも選んでくださって、自分の出番がくる前から岡山のロケ現場に入って勉強するように、とのお達しがありました。

ところが、単に人手が足りなくて手伝いが欲しかったみたいで(笑)、「セミの声がうるさいから捕まえてこい」とか使い走りをさせられては怒られる。こんなにこき使われたらさすがにやってられない、と思うようになりました。

するとそれを見透かしたように監督から言われたんです。「お前、もういらないから東京に帰れ」。怖かったですよ。「帰りません」と言って、その後はひたすら働きました。

その体験があったおかげでわかったんですよね。これだけのスタッフの苦労があって役者は芝居ができるんだ。きらびやかに見えるけど、地味で職人のような世界であり、作品はみんなで作るものなんだと。

ちなみに、このデビュー作でご一緒したのが、今回の朝ドラで夫婦役として共演している麻生久美子さん。しっかり一緒に芝居をするのはあれ以来なので、あのときのスタッフさんが観たら喜んでくれているんじゃないかなと思います。

久美子ちゃんとは当時のことを話したりはしませんが、今村監督との共通の思い出があるからか、語らずとも共にいい現場が作れているなと思っています。

後編につづく