出家に際し、実際に長い髪を剃髪した柄本さん。ドラマはこれからも大展開をするが、10月25日にクランクアップした柄本さんに、『光る君へ』への思いを語ってもらった。
(構成◎しろぼしマーサ 写真提供◎NHK)
藤原道長という役
━━撮影開始から約1年半、クランクアップして、振り返っていかがですか。
『光る君へ』は、これから最終回までいろいろなことが起こります。ドラマの放送は続いているから、終わったという実感が、まるでないです。
藤原道長という素晴らしい役柄に挑戦させていただいたことは、とてもありがたく思っています。監督さん、俳優さん、スタッフの皆さん、ドラマに関わった方々と厚みのある良い関係をもてたことは、とても幸せでした。
クランクインから1年半といっても準備からなら約2年ですから、撮影現場が終わるのには寂しさがあり、終わりたくない気持ちがある。そして、あのシーンはああすれば良かったとか、こうすれば良かったとか、考えたりもしています。
━━藤原道長は栄華を極め、驕り高ぶった人というイメージがありましたが、大石静さんの脚本と柄本さんの演技により、そうではない新しい道長が誕生したと感じました。
第44回では、道長は三人の娘である彰子(見上愛さん)が太皇太后、妍子(倉沢杏菜さん)が皇太后、威子(佐月絵美さん)が中宮になり、まさに絶頂期を迎えています。そして、土御門殿で威子が中宮になったことを祝う宴が開かれる。公卿たち、まひろ、嫡妻の倫子(黒木華さん)のいる中で、道長は歴史的に有名な「この世をば わが世とぞ思ふ望月の 欠けたることもなしと思へば」という和歌を詠みます。
藤原実資(秋山竜次さん)が素晴らしすぎて返歌ができないほどの作品で、皆でこの歌を唱和するのですが、この歌の意味は深すぎる。
その時の道長は、栄華の絶頂で驕り高ぶるどころか、どんどん追い詰められている。半泣きの道長なのです。三条院(木村達成さん)との確執だけでなく、摂政と左大臣の兼務により、公卿たちに良く思われず、藤原公任(町田啓太さん)に内裏の平安を保つためには、左大臣を辞すべきだと言われ、様々な苦悩が押し寄せる中で、和歌を詠んでいる。優雅なだけの歌ではないですよ。
第45回では、四納言(公任、斉信、源俊賢、行成)が、この歌をどう受け止めたかを語り合うのですが、本当に深い意味のある歌だと僕も思いました。