まひろと道長
━━第42回で、まひろは宇治の別邸に病で弱っている道長を訪ね、2人で川辺を歩きます。道長はまひろに「お前は俺より先に死んではならぬ」と言います。
第45回で、まひろは大宰府に向けて旅に出ることを決意。それを止める道長に、まひろは「これ以上、手に入らぬお方のそばにいる意味は、なんなのでございましょう」と言いますが、この2つのシーンについて聞かせてください。
第42回の川辺でのシーンは、私の好きなシーンのひとつです。2人の会話には、距離感がなく、恋愛でもなく、友情でもない、お互いを生きることの糧にしているというソウルメイトの最終段階というシーンだと思いました。
第45回の道長に旅に出ることを止められるシーンは、まひろにとっては切ないですよね。まひろの書く『源氏の物語』によって、一条天皇(塩野瑛久さん)の心を中宮・彰子(見上愛さん)に向けられた。皇子も生まれ、彰子は別人のようにしっかりした。『源氏の物語』により、道長の役に立てたので「私はやりましたよ!」という達成感は、まひろにあったと思います。そして、『源氏の物語』の続きとして光る君の死後の物語と、その続編の『宇治の物語』も書き終えた。
まひろは、ここにいる意味とは何なのだろうと思い、行動の全てがむなしくなる。道長から、再び自分が必要とされるような新しい言葉を聞きたかったのです。道長の役に立つことを期待しても、新たな役目はなく、道長の傍にいるのが辛くなった。まひろは、解放されたくなったのでしょうね。
━━第45回で道長は出家を決めて剃髪します。第46回で、まひろは大宰府にいて、道長が出家したことを聞きますが、どう感じたのでしょうか。実際に柄本佑さんは髪を剃ってしまいましたが。
私はその日の出演が終わっていたのですが、セットに残って、柄本佑くんが、剃髪するのを見届けました。
『光る君へ』の時代の出家は、世を去ることと同じなので、まひろが、もし道長が剃髪するところを見たら、自分も出家したいと思ったはずです。まひろは、矛先をどこに向けたらよいか分からないくらいのショックを受けたはず。でも、弱っている、苦しんでいる道長をもう見なくて良い、安らいだ道長が、こちらを見ている気がしたかもしれません。
佑くんは、髪の毛を伸ばして、地毛を結って烏帽子をかぶり、道長という人物に気持ちを入れていました。そんな大切な髪を切り落とす時、どういう気持ちになるのか?と考えていました。途中、何とも言えない熱い感情が込み上げてきましたが、坊主になったとたんに、「頭の形が綺麗だわ」と思いました。(笑)
━━柄本拓さんとは、各シーンでいろいろ話し合ったのですか。
お互いがどう動くかとか、感情を押し出したり、引いたり、ここの台詞はこうなるのだろうかとか、話し合いをしていました。道長が佑くんで良かったです。「佑くんだったらどう思う?」と、自然に聞ける人でしたから。
第10回の廃邸での逢瀬のシーンは、ワンカットの長いシーンで、くたびれるくらい2人で話し合ったので印象に残っています。
佑くんの道長は、情けない道長、とまどっている道長、恐ろしい道長など、表情がクルクル変わる。誰もが表から見える自分と、裏の自分がある。佑くんは、それを生々しく表現できる役者さんだと思います。一緒に演技ができたのは、贅沢な体験でした。