エントロピーの増大
細川元首相が湯河原で陶芸と畑をやっている。知人にそう聞いた。その知人があるとき細川宅を訪問したら、細川さんが檻に入って畑仕事をしている。なぜ人間が檻に入るのかというと、サルが出るからである。
それならイヌを飼えばいい。というより、だから人はかつてイヌを飼うようになったのであろう。番犬とはそういう意味である。なにも泥棒の番をするだけがイヌの役目ではなかった。サルだってイノシシだって、農家から見れば泥棒の一種である。それがわからなくなったのが都会人であろう。
どうすればいいか。イヌを参勤交代させればいい。1年のうち適当な期間は、飼い主ともども田舎に行き、山野を走り回ればいい。それが本来のイヌの姿ではないか。それをこれっきり愛玩動物にして、恬(てん)として恥じないのはだれか。イヌを虐待すると、動物愛護の人たちが怒る。それなら紐で一生つないで飼っているのは、虐待ではないのか。
わが家のネコは、紐でつないでない。勝手に家を出入りしている。1年前に飼ったネコだが、おかげで当方の手から餌をとるまでに慣れていたタイワンリスが来なくなった。そのくらい、野生動物は捕食者に敏感である。それで当然で、それでなけりゃ生きていけない。
野犬の問題は、いわゆる環境問題の象徴である。イヌを管理せよと主張した側は、まさかその結果、サルとイノシシとシカが農作物を荒らすようになるとは考えなかったであろう。一方の秩序は、他方の無秩序を引き起こす。これをエントロピーの増大といって、熱力学を学んだ人はだれでも知っているはずである。