現代社会の根本的な問題

都会人の問題は、意識的活動こそがまともな活動だと思い込んでいることである。寝ているのは、ただ休むためだ、と。そうではない。意識が存在することに、眠りは必然として伴っているのである。それが自然の法則である。秩序的な活動は、それだけで存在することはできないのである。

そこが納得されていないと、意識的活動のみが「正しい」という錯覚が生じる。現代社会の根本的な問題がそれだということは、わかる人にはわかっているはずである。起きている間、つまり「意識がある」間は「自分は絶対に正しい」などと思ってしまう。

だから車に爆弾を積んで自爆したりする。そういう人は、寝ている間は自分はどう考えているんだと、たまには反省すべきなのである。

起きている間は、これっきり「正しい」と思っていることでも、寝ている間にどう思っているか、知れたものではない。

※本稿は、『わからないので面白い-僕はこんなふうに考えてきた』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


わからないので面白い-僕はこんなふうに考えてきた』(著:養老孟司 編集:鵜飼哲夫/中央公論新社)

「ああすれば、こうなる」ってすぐ答えがわかるようなことは面白くないでしょ。
「わからない」からこそ、自分で考える。……それが面白いんだよ。

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