意識と眠り、秩序と無秩序

われわれはかならず寝る。寝ないで済ませようと思っても、それは続かない。なぜか。起きている状態とは、意識がある状態である。意識とは秩序正しい活動である。無秩序な意識などというものはない。意識が秩序的活動であるなら、それはどこかに無秩序を生み出しているはずである。イヌを管理すれば、サルが出てくるはずなのである。

意識という秩序活動が生み出した無秩序は、脳自体に蓄積する。脳に溜(た)まった無秩序を、脳はエネルギーを遣って片付ける。その作業の間、当然のことだが意識はない。それを人々は「眠る」という。眠るのは休んでいるのだ。それが通常の了解であろう。休むというのはエネルギーを遣わない。

養老孟司
養老孟司さん(2023年11月撮影。写真:本社写真部)

ところが寝ていようが起きていようが、脳はエネルギーを消費するのである。ということは、寝ている時間は「休んでいる」つまり「エネルギーを遣わない」時間ではない、ということである。それは「無秩序を減らして、元の状況に戻す」ということなのである。

だから覚醒剤の使用は、脳を傷害する。長期に使用すれば、統合失調症に似た状況が出現して、回復が困難な障害を生じる。もちろん眠らないで暮らすことも不可能である。意識があるということは、同時に眠りが存在することなのである。