役作りは勝手にやれない
平田さんの舞台で、最も著しい成果を上げたのは、永井愛作『こんにちは、母さん』(2001年、04年)ではないだろうか。
平田さんの役は、大企業に勤め、仕事や妻子との関係に疲れ果てた男で、ある日ふと一人暮らしの母親(加藤治子)を訪ねてみると、母親はウキウキとしてカルチャースクールの講師・直文(杉浦直樹)に恋をしていた。
この舞台で平田さんと加藤さんは揃って読売演劇大賞の最優秀男優賞と女優賞を受賞している。
――加藤さん、可愛らしくて素敵でしたね。映像ではそれまでもご一緒してましたが、舞台はこれが初めて。たしか舞台出演はこの時が最後ではなかったでしょうか。台詞の多いのは加藤さんと杉浦さんでしたから、僕は台詞の量としては楽でした。
永井愛さんも稽古好きな方で、何度も稽古してくださるし、そうすると自然に台詞も入ってくるんですよね。
こういう時でもつかさんの影響なのか、人物の関係ができてからでないと台詞は覚えちゃいけないみたいなのが、身体に染みついているんです。関係ができる前に台詞だけ覚えて演じると、頭の芝居になっちゃうので。だから人物関係ができるってことは、実はもう、ほぼ芝居はでき上がってるってことなんですよね。
とにかく、つかさんの口立て稽古だと、毎日少しずつ同じことをやっていくうちに、自然に台詞が入ってしまう。前もって役作りなんてことは勝手にやれない。時折ちょっと芝居っぽくやったりすると、「小賢しいことをしやがって。どこで覚えてきたんだ」って言われる。
ですから初めてつかさん以外の芝居に行った時は苦労しましたよ。「本読み」ってどうするんだろうとか、「明日から立ち(稽古)になります」って言われて、えっ? と思ったり。(笑)
他の芝居に出ている平田さんを、つかさんは観においでになるのか。
――来ませんよ(笑)。だいたい面倒くさがりで、他の人の芝居はあまり観ません。たまに「おい、行くぞ」って連れて行かれても、最後まで我慢できずに、「出よう」ってなりますから。